遺品の出張買取で押し買いにあわないために|訪問購入の決まりとクーリング・オフの手順

この記事のまとめ

  • 自宅に来た業者に物を売る取引は特定商取引法の「訪問購入」で、依頼していない人への勧誘や、断った人への再勧誘は禁止されている
  • 売買の書面を受け取った日から数えて8日以内なら、書面または電子メールなどでクーリング・オフができ、その間は物の引渡しも拒める
  • 自動車、家庭用電気機械器具(携行が容易なものを除く)、家具、書籍、有価証券、レコードやCD、DVDなどの記録物は、施行令第34条で訪問購入の対象から除かれている
  • 国民生活センターのページでは、訪問購入の相談件数は2023年度8,623件、2024年度7,909件、2025年度7,523件で、不用品の買い取りのはずが貴金属を買い取られたという相談が寄せられている
  • 突然来た業者は家に入れず、不安なときや強引に買い取られたときは消費者ホットライン188に電話する

実家の遺品を自宅で買い取ってもらうときは、業者に決まりがあり、売る側にも使える手段があります。業者が自宅などで物を買い取る取引は、特定商取引法の「訪問購入」にあたります。依頼していない人への勧誘は禁止されていて、売買の書面を受け取った日から数えて8日以内なら、クーリング・オフ(契約の解除)もできます。その間は、物を渡すことも拒めます。困ったときの相談先は、消費者ホットライン188です。

この記事は、消費者庁と国民生活センターの資料、法令の条文で確かめた範囲だけを書きます。個別の取引がクーリング・オフの対象になるかの判断はできません。それは、お住まいの地域の消費生活センターに聞いてください。

訪問購入とは:自宅で買い取ってもらう取引

特定商取引法では、物品の購入を仕事にしている業者(購入業者)が、店舗などの営業所以外の場所で売買契約の申込みを受けたり契約を結んだりして物を買う取引を「訪問購入」と呼びます(第58条の4)。実家や、遺品を整理している自宅に業者が来て買い取る出張買取は、これにあたります。

消費者庁の注意喚起チラシには、次のようなトラブル事例が挙がっています。

国民生活センターの訪問購入のページにも、「不用品や和服の買い取りのはずが貴金属を買い取られた」という相談が寄せられていると書かれています。事例として、ダイニングセットを売るつもりが金のネックレスを売った例や、高齢の母が古本の買い取りを頼んだのに、玄関先に置いていた貴金属を安く買い取られた例などが載っています。

同じページによると、PIO-NET(全国の消費生活相談の情報)に登録された訪問購入の相談件数は次のとおりです(2026年5月31日現在。消費生活センター等からの経由相談は含みません)。

年度 相談件数
2023年度 8,623件
2024年度 7,909件
2025年度 7,523件
2026年度 826件(前年同期823件)

業者に課されている決まり

条文と消費者庁のガイドで確かめた、購入業者の主な義務は次のとおりです。

場面 決まり(条文)
勧誘の前 業者の名前、勧誘の目的であること、買い取る物の種類を明らかにする(第58条の5)
依頼していない人 自宅などで勧誘したり、勧誘を受ける意思があるかを確かめたりしてはならない(第58条の6第1項)
勧誘の前の確認 勧誘を受ける意思があることを確認せずに勧誘してはならない(同条第2項)
断られたあと 契約を結ばない意思を示した人に勧誘してはならない(同条第3項)
申込みを受けたとき 物の種類、買取価格、代金の支払時期と方法、引渡しの時期と方法、クーリング・オフや引渡し拒絶に関する事項を書いた書面を直ちに渡す(第58条の7)。その場で契約を結んだ場合は、契約の書面を渡す(第58条の8)
物を直接受け取るとき 引渡しを拒める旨を告げる(第58条の9)
禁止される行為 買取価格や解除に関することで事実と違うことを告げる、故意に事実を告げない、威迫して困惑させる(第58条の10)

消費者庁のガイドには、査定を頼んだ場合でも、査定を超えて買取りを勧誘するのは法に抵触すると書かれています。チラシも、電話で買取りを希望した物以外の「貴金属」などを購入業者が突然勧誘することは、法律で禁止されていると説明しています。

クーリング・オフの手順

クーリング・オフは、売ったあとでも契約をなかったことにできる制度です。訪問購入では、次のとおりです。

項目 内容
期間 書面を受け取った日から数えて8日以内。申込みの書面が先に渡されていれば、その書面を受け取った日から数える(第58条の14第1項)
方法 書面または電磁的記録(電子メールなど)で通知する
効力 通知を出した(発した)時から生じる(同条第2項)
費用など 業者は、損害賠償や違約金を請求できない(同条第4項)
妨害されたとき 業者がクーリング・オフについて事実と違うことを告げたり、威迫したりしたために期間内に行えなかった場合は、期間を過ぎても行える。この場合の8日は、業者がクーリング・オフできる旨を書いて改めて渡した書面を受け取った日から数える(同条第1項、国民生活センター)

手順は次のように進めます。

  1. 受け取った書面の日付を見て、8日目がいつかを確かめる。書面を受け取っていなければ、期間は始まっていない
  2. 通知を書く。契約年月日、契約者名、売った物の名前、契約金額、買取業者の名前、通知を出す日を入れる
  3. 書面で出すときは、はがきの両面をコピーしてから、特定記録郵便か簡易書留など、発信の記録が残る方法で業者の代表者あてに出す。コピーと送った記録は、少なくとも5年間保管する
  4. 電子メールやFAXでも通知できる。契約書面に通知先が書かれていれば、それに従う。送信したメールや、専用フォームの画面のスクリーンショットを残す
  5. 売った物を渡していた場合は、物を返してもらい、受け取った代金は返す(国民生活センター)

通知の書き方は、国民生活センターの「買取業者あて(訪問購入の場合)」の記載例にあります。記載例は画像で載っているため、ページの説明文にある項目を、その順に並べると次のようになります。

通知書
次の契約を解除します。
契約年月日   年 月 日
商品名     (売った物)
契約金額    (金額)
買取業者    (業者の名前)
発信日     年 月 日
住所
氏名

物を渡している場合は、「引き渡し済みの商品○○を返還してください。」と書き足します。実際に出す前に、国民生活センターのページの記載例を見て、書き方が分からなければ消費生活センターで聞いてください。

物の引渡しは拒める

クーリング・オフの期間中は、引渡しの期日が決まっていても、買取業者に物を渡すことを拒めます(第58条の15)。国民生活センターのページにも、期間内は売却商品の引渡しを拒めると書かれています。

物を渡してしまった場合の決まりも、条文にあります。業者は、クーリング・オフの期間内に、受け取った物を第三者に渡したときは、そのことと引渡しに関する事項を、遅滞なく売り手に通知しなければなりません(第58条の11)。消費者庁のガイドでは、通知する事項として、第三者の名前・住所・電話番号、第三者に渡した年月日、物品の種類や物品名などが挙がっています。また、物を受け取る第三者にも、契約が解除されることがある旨を書面で通知しなければなりません(第58条の11の2)。

一方で、クーリング・オフで契約を解除しても、その物を業者から買い受けた第三者が、事情を知らず、知らないことに落ち度がなかったときは、解除を主張できません(第58条の14第3項)。もう渡してしまい、取り戻したいときは、早めに消費生活センターに連絡してください。

訪問購入の対象にならないもの

訪問購入の定義から除かれる物品は、特定商取引法施行令第34条に挙げられています。e-Govの条文で確かめた範囲は、次の6種類です。

施行令第34条の物品 消費者庁の具体例(一部)
自動車 (具体例の資料では「自動車(二輪のものを除く。)」。下の説明を参照)
家庭用電気機械器具(携行が容易なものを除く) 電気冷蔵庫、電気洗濯機、エアコン、テレビ受像機、ステレオ、DVDプレーヤー、電子レンジ、電気掃除機など
家具 たんす、机、ソファー、ベッド、テーブル、金庫など
書籍 事典、全集物、写真集、雑誌、単行本など
有価証券
レコードプレーヤー用レコード、および音・影像・プログラムを記録した物 レコード、CD、DVD、ブルーレイディスク、コンピューターソフトなど

着物や貴金属は、この6種類に挙がっていません。据え置きのステレオなどの家庭用電気機械器具は、具体例の資料で除かれる物品の例に入っています。どの機器が「携行が容易なもの」にあたるかは、確かめた資料に書かれていません。切手や商品券が「有価証券」にあたるかも、確かめた資料に書かれていないため、この記事では判断しません(切手は 古い切手の束が出てきたら も参照)。

自動車の書き方には注意が要ります。e-Govで2023年5月31日時点と6月1日時点の条文を比べると、同じ物品の一覧は、2023年6月1日施行の改正の前は施行令第16条の3にあり、第1号は「自動車(二輪のものを除く。)」でした。改正後の今の第34条第1号は「自動車」です。消費者庁の具体例の資料は、改正前の書き方のままになっています。バイクなどの二輪車を売るときに当てはまるかは、この記事では判断しません。

もう一つ、第58条の17に適用除外があります。営業のために結ぶ取引、国や地方公共団体が行う取引、事業者が従業員に行う取引などには、訪問購入の章の規定が適用されません(同条第1項)。また、自宅で売買契約の申込みや契約をすることを自分から請求した人に行う取引などには、依頼していない人への勧誘の禁止(第58条の6第1項)と、書面の交付やクーリング・オフなど(第58条の7から第58条の16)の規定が適用されません(同条第2項)。消費者庁のガイドは、政令で定めるものとして、いわゆる御用聞き取引、常連取引、住居から引っ越す際に売り手のほうから取引を持ちかけた場合を挙げています。当てはまるかは事情で変わるため、この記事では判断しません。

家族がしておくこと

国民生活センターは、2024年9月18日の報道発表で、消費者へのアドバイスとして次の4点を挙げています。

消費者庁のチラシは、買取りを希望しない物は見せないこと、契約書面の物品名に売った物が正しく書かれているかを確認することも挙げています。一度見せると、強引な勧誘に負けて買い取られてしまうことがあるためです。

遺品の整理では、親族が離れた場所にいることも多くあります。国民生活センターの発表では、事例では主に80歳以上の女性が当事者になっているとされています。消費生活センターなどへの相談は、家族やホームヘルパー、地域包括支援センターの職員からでもできると書かれており、身近な高齢者がトラブルにあっていると気づいたら、早めの相談が勧められています。実家に来る業者の予定は、家族のあいだで共有しておくと、一人で対応する場面を減らせます。

相談先:消費者ホットライン188

188は、全国共通の電話番号です。かけると、お住まいの地域の消費生活センターなど、身近な相談窓口につながります(消費者庁)。

次にすること

  1. 業者に来てもらう予定があれば、買い取りを頼む物を決めておき、それ以外は見せない
  2. 業者が来たら、名前と目的を言わせ、書面の物品名と金額を確かめる。書面を受け取った日をメモする
  3. 売ったあとで不安になったら、8日以内に、書面または電子メールで通知する。判断に迷えば188に電話する

遺品の分け方は 実家の片付けで出てくる物の分け方、片付け全体の順番は 実家じまいの流れと費用 にまとめてあります。人形を手放す方法は 日本人形・雛人形の手放し方 に書いてあります。

出典(確かめた日)